駅のホームに貼られた淡い写真のポスターにひかれて真冬の曇り空の下、午前中から渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムにて1月9日から開催されている『永遠のソール・ライター展』に予備知識なしで行ってきました。美術展は興味が湧いたら映画と同じくあまり下調べせずノリで飛び込むことを信条としております。

写真家ソール・ライターとは
12歳のとき母親から与えられたカメラをきっかけに写真を撮り始め、ニューヨークで画家を目指しますが生計を立てるためファッション雑誌のフォトグラファーとなったのが写真家としてのはじまりで、やがてモデルを撮るよりも「雨粒に包まれた窓の方が」面白いと徐々に商業写真から離れて、自分が居を構えるニューヨークの街を撮影するようになったそうです。

今回の展示もファッションモデルの写真はほとんどなくニューヨークのスナップがメインで、「ファションフォトグラファー」という肩書きを持ちながら人を正面から撮影したものがほとんどないのが意外でした。
大きな軒先の影や雨で曇ったガラスの向こうに人をとらえた大胆な構図や独特の色彩は画家として活動していたことが影響しているのかなとも思いましが、どれも生活感のある写真なので喫茶店の窓から外を眺めるようなくつろいだ気分にもなって、日常のありふれたひとコマにも見えてきます。
スタジオで決めたポーズを撮影するのとはわけが違うため、常に人が行き交う街中をここぞとばかりにシャッターを切る瞬発力と洞察力は何気に凄まじいのではないのだろうかと思えました。

もちろん図録も購入。
2017年にも同じくBunkamura ザ・ミュージアムで回顧展が開かれていて、当時日本ではほぼ無名だったにも関わらず8万人が来場したそうです。
ドキュメンタリー映画も鑑賞

休日にあえて午前中からおもむいた理由は、ドキュメンタリー映画『写真家ソール・ライター急がない人生で見つけた13のこと』を10時50分の回に鑑賞するため。一日2回しか上映されないのでこれを逃すと一気に夕方に。美術展や映画は午前中に鑑賞し午後はゆっくりその余韻に浸りたいので何かを「観るぞ!」と決めた日はたいてい早起きとなりがちです。
つり上がった眉間が強面にうつり偏屈そうにみえますが、笑顔がとてもチャーミングでゆっくりと落ち着いた喋り方はまさに好々爺といったたたずまい。街にくり出して撮影するときも「カメラもって散歩しているおじいちゃん」にしか見えません。
この日本語字幕を担当したのは翻訳家の柴田元幸さんで、公式サイトには映画についてのコメントや「柴田さんとのQ&A」では質問に答える形で字幕翻訳に関わった経緯とソール・ライターの好きな言葉なども掲載され、この映画の雰囲気がより詳しく伝わると思います。
Q4. (一番好きな場面を敢えて選んでくださいとお願いしたら)
どのシーン、または言葉ですか? そして、その理由は?「忘れられたいと思ってたのに
Subtitles 日本語字幕 | 映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』公式サイト
重要でなくあろうと願った
それが… まあ仕方ない」
――と、彼が言うところ。
偽の謙遜でなく、本気でそう言っていると感じる。
そんなことができる人が、ほかにどれだけいるだろう?
写真展をみた後にそれを撮影した本人のドキュメンタリー映画まで鑑賞できたのは、その人物の世界観にどっぷりとハマれるかなり贅沢なひとときでした。
今後の開催にも期待
美術展の会場は基本どこでも静かなものですが、彼の写真に囲まれた空間というのは独特の静けさを醸し出しててとても落ち着くので、機会があればまた行きたい写真展です。
個人で撮影された写真は公に発表されてこなかったため有名になったのはかなり晩年のことで、どこにも発表していない写真がまだ彼のアトリエに沢山埋もれているそうなので、今後開催されることがあれば新しい作品に出会える可能性もあります。
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