3分ほどの長さながら、その独自の色彩とキャラクター造形に釘付けにされます。
何かが大きく変容しようとしている それを私達は目撃することしかできない。
PUPARIA – YouTube
Something is about to change drastically We can only be witnesses to it.
一人だけでこれを制作した玉川真吾監督は、絵コンテをあらかじめ用意せずに湧いてくるイメージのまま、即興のように最後まで作り上げたというのもまた驚きです。
“puparia”とは何なのか
昆虫が幼虫から成虫になるとき、一時的に蛹(さなぎ)の状態になることがあります。この蛹のときにできる殻は囲蛹殻(いようかく)と呼ばれ、英語で puparium といい、その複数形を puparia と書くそうです。
冒頭の女の子の後ろに横たわる長い髭を動かす縞模様の動物や、振り返る男の前に部屋の奥から現れるフクロウに似た生物など、もしかすると蛹をモチーフにしているのかもしれません。
最後に現れる薄青い肌の少女(少年?)は、蛹から羽化した新しい人類なのか。周りをとり囲む大勢の人たちは、まだ蛹のままの puparia にも見えますが、説明は一切なく観るものの解釈に委ねられています。
『PUPARIA』ができるまで
アニメーターに憧れ、大学院を中退してアニメ業界へ入った玉川真吾監督は消費され続けるアニメへの葛藤から限界を感じ、仕事を辞めて絵を描くことも止めてしまいます。
本を読んだり散歩をしたりしながら、何をするでもなく1年半が経った頃、放浪のような何もしなかった時間のなかで生まれたイメージに形を与えるべく、またアニメを作ろうと思い立つのでした。
監督自身が語るメイキング映像が公開されているので、詳しくはそちらの視聴をおすすめします。
「他人を巻き込めない」と一人で始めた制作は、作画のゴミ取りやスキャンなど雑務もすべて一人でやらなくてはいけません。その圧倒的な作業量に忙殺されるなか、予定調和を避ける意味もこめてあえて絵コンテを作らなかったそうです。手探りの状態で雑務に追われると方向性を見失いそうですが、むしろ次にどんなシーンが自分の中から出てくるのか、楽しみながら制作したと語られています。
それは、地道な作業の積み重ねのなかで自らへの手応えを感じ、限界を感じていた自己への信頼を回復していくようで、アニメから一度離れて新しい表現を求めて、またアニメに帰ってきた玉川真吾監督自身の物語が結実していく過程のように、僕には見えました。
あとインタビューで『スパイダーマン:スパイダーバース』というCGバリバリの映画と、ストップモーションアニメの LAIKA Studios が一緒に語られているのも面白いですね。


『PUPARIA』の音楽
マリンバとビブラフォンの反復する音色が印象的なサウンドは、ミニマル音楽の作曲家として有名な スティーブ・ライヒ の楽曲。
テンポは速いですがマリンバの柔らかく丸みのある音と、ビブラフォンの抜けるような高音が響き合い、アニメのテーマである人間や世界が変化していく未来に向けて、緊張感とおぼろげな希望を表しているように思います。

『PUPARIA』は、2020年11月に世界でも珍しい空港内で開催されるアニメの国際映画祭『第7回 新千歳空港国際アニメーション映画祭』にて、特別賞を受賞しています。
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